半田屋九兵衛夫婦も共に蒼くなった

 半田屋九兵衛夫婦も共に蒼くなった。宿泊者から変死者を出したとあっては、事がはなはだ面倒だからであった。 それは毒殺? とすればいよいよ掛り合。無論医師の俊良が、秘密を保つ為に一服盛ったなとは略《ほぼ》推察は出来るのであったが、それもしかし金三郎と娘お綾との結婚の為には、邪魔が払えた勘定でもあるので、これは絶対に秘密にという小人の奸智《かんち》。「俊良様、御掛り合で、重々御迷惑とは存じまするが。それ、な、決して、その、毒死ではない、物中《ものあたり》の為め頓死で御座りましょうで、御手数ながらその御見立を一札どうぞ」「や、心得て御座る。決してこれは毒死では御座らぬ。これは医師の立場からして、拙老がどこまでも保証仕るで、御心配には及ばぬ事じゃ」 届書に俊良、食べ合せ物宜しからず、脾胃《ひい》を害《そこな》い頓死|云々《うんぬん》。正に立会候者也と書き立てた。 検視の役人も来ぬではなかったが、医師の証明があるので、一通り検分の上無事に引揚げた。 急いで死体は笹山《ささやま》へ送って火葬。尼の堕落が悲惨の最期。いわゆる仏説の自業自得であった。

      六

 天城屋敷の池田出羽の許《もと》へ早馬で駈着けたのは野末源之丞。奥書院にて人払いの上、密談の最中。池田出羽は当惑の色をその眉宇《びう》の間に示しながら。「シテ、その小笠原金三郎とやら申す浪人の所持致す脇差に就て、御上《おかみ》には御心覚えあらせられるかあらせられぬか。一応御伺い致されたか」 源之丞は恐る恐る。

— posted by id at 02:00 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.0990 sec.

http://vividnews.jp/