過分の御褒美は勿論《もちろん》の事

「へえ――、それはどういう訳で」「いや、長く我等を世話してくれたら、過分の御褒美は勿論《もちろん》の事、次第に依ってはその方を士分にお取立てがあるかも知れぬが……や、緑なき衆生は度し灘し。どうも致し方の無い事じゃ。さァ御両所御支度なされえ。東中島の児島屋勘八《こじまやかんぱち》という店が好さそうに御座る。あそこの主人は物の分る男らしい顔つきで御座るで、あれへ参ろう」

       二

 こうなると半田屋九兵衛、気に為《せ》ずにはいられなくなった。首をチョン切られた上に、二本松の刑場へ晒されるか。褒美を貰った上に士分にまで取立てられるか。どちらかに傾くかという、これは大事な別れ目。しかし、それは浪人達が好い加減の出鱈目《でたらめ》で、つまりは無銭宿泊の口実に、何か彼か拵《こしら》え事を云うのであろうとも思ったが、一体それはどういう訳か、後日の為にそれだけでも聴いて置きたいと考えて。「まァまァお待ち下さりませ。何やら御様子ありげの今のお言葉、とにかくその仔細を、御差支《おさしつかえ》無い限りは、手前どもにお聴かしの程願いまする」「それは次第に依っては申し聴かせぬものでもない。しかし、これは一大事である。我等に取っても一大事なら、当岡山城、池田の御家に取っても容易ならぬ一大事で」「えッ」「他聞を憚《はばか》る事じゃから、そのつもりで」 半田屋九兵衛、何んだか気味が悪くなって来た。御領主にも関係しているらしい一大事なんて、吉《よ》かれ凶《あし》かれそうした事件に掛り合っては、まかり間違えば実際首が飛ぶ。しかし又間違わずに運んだらそれは又どんな利徳が得られるか、それは分らぬ。とにかく聴くだけは聴いておけと。「半田屋九兵衛、宿屋稼業は致して居りますれど、他聞を憚る一儀ならば、決して口外致しませぬ」「好し。それでは申し聴かせるが……他に立聞き致す者は居るまいな」

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