土地での欲張り者

「何はしかれ、先ず酒に致そう」と色の黒いのが向き直った。「いや、その前に、当家の主人《あるじ》を呼出して、内意を漏らしてはいかがで御座りましょう」と総髪のがちょっと分別顔をした。「なる程、俊良《しゅんりょう》殿の云われる通り、それが宜《よろ》しかろう」と若侍は賛成した。 早速呼出された当家の主人半田屋九兵衛。これが土地での欲張り者。儲《もう》かる話なら聴くだけでも結構という流儀。その代り損卦《そんけ》の相談には忽ち聾《つんぼ》になって、トンチンカンの挨拶《あいさつ》で誤魔化すという。これもしかし当時の商人気質《あきゅうどかたぎ》を代表した人物であった。「へえ、手前、当家の主人、半田屋九兵衛。本日はお早いお着き様で御座りました」「早い訳じゃ。今朝《こんちょう》、西大寺《さいだいじ》を出立したばかりで」「へえへえ、左様で御座りまするか」「我等三人。チト長逗留《ながとうりゅう》を致すかも知れぬが。好いか」「有難う御座りまする」「いやそう早く礼を云ってくれては困る。この後を聴いたらキッとその方、前言を取消すと存ずるが」「いえ、どう仕《つかまつ》りまして」「実は我等懐中|甚《はなは》だ欠乏で」「へえーン」「三人で二月《ふたつき》三月、事に依ったら半歳か一年、それだけ厄介に相成るとして、その間に宿代の催促されてはちょっと困る。それが承知ならこのままに腰を据えるが、さもなくば他の宿屋へ早速転泊致す。それで好いか、どうじゃの」 すべてこの談判は医者の俊良というのが当っていた。

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