おミソの小道具がめんどうです

「井戸端《いどばた》で足を洗っています。」 と橋田氏は引き取り、「とにかく壮烈なものでしたよ。私は見ていたんです。ミソ踏み眉山。吉右衛門《きちえもん》の当り芸になりそうです。」「いや、芝居にはなりますまい。おミソの小道具がめんどうです。」 橋田氏は、その日、用事があるとかで、すぐに帰り、僕は二階にあがって、中村先生を待っていた。 ミソ踏み眉山は、お銚子を持ってドスンドスンとやって来た。「君は、どこか、からだが悪いんじゃないか? 傍に寄るなよ、けがれるわい。御不浄にばかり行ってるじゃないか。」「まさか。」 と、たのしそうに笑い、「私ね、小さい時、トシちゃんはお便所へいちども行った事が無いような顔をしているって、言われたものだわ。」「貴族なんだそうだからね。……しかし、僕のいつわらざる実感を言えば、君はいつでもたったいま御不浄から出て来ましたって顔をしているが、……」「まあ、ひどい。」 でも、やはり笑っている。「いつか、羽織の裾《すそ》を背中に背負ったままの姿で、ここへお銚子を持って来た事があったけれども、あんなのは、一目瞭然《いちもくりょうぜん》、というのだ、文学のほうではね。どだい、あんな姿で、お酌《しゃく》するなんて、失敬だよ。」「あんな事ばかり。」 平然たるものである。

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