おかみさんの顔を見た

「壮観でしたよ。眉山がミソを踏んづけちゃってね。」「ミソ?」 僕は、カウンターに片肘《かたひじ》をのせて立っているおかみさんの顔を見た。 おかみさんは、いかにも不機嫌そうに眉をひそめ、それから仕方無さそうに笑い出し、「話にも何もなりやしないんですよ、あの子のそそっかしさったら。外からバタバタ眼つきをかえて駈《か》け込んで来て、いきなり、ずぶりですからね。」「踏んだのか。」「ええ、きょう配給になったばかりのおミソをお重箱に山もりにして、私も置きどころが悪かったのでしょうけれど、わざわざそれに片足をつっ込まなくてもいいじゃありませんか。しかも、それをぐいと引き抜いて、爪先立《つまさきだ》ちになってそのまま便所ですからね。どんなに、こらえ切れなくなっていたって、何もそれほどあわて無くてもよろしいじゃございませんか。お便所にミソの足跡なんか、ついていたひには、お客さまが何と、……」 と言いかけて、さらに大声で笑った。「お便所にミソは、まずいね。」 と僕は笑いをこらえながら、「しかし、御不浄へ行く前でよかった。御不浄から出て来た足では、たまらない。何せ眉山の大海《たいかい》といってね、有名なものなんだからね、その足でやられたんじゃ、ミソも変じてクソになるのは確かだ。」「何だか、知りませんがね、とにかくあのおミソは使い物になりやしませんから、いまトシちゃんに捨てさせました。」「全部か? そこが大事なところだ。時々、朝ここで、おみおつけのごちそうになる事があるからな。後学のために、おたずねする。」「全部ですよ。そんなにお疑いなら、もう、うちではお客さまに、おみおつけは、お出し致しません。」「そう願いたいね。トシちゃんは?」

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