おかみさんの顔を見た

「壮観でしたよ。眉山がミソを踏んづけちゃってね。」`「ミソ?」` 僕は、カウンターに片肘《かたひじ》をのせて立っているおかみさんの顔を見た。` おかみさんは、いかにも不機嫌そうに眉をひそめ、それから仕方無さそうに笑い出し、`「話にも何もなりやしないんですよ、あの子のそそっかしさったら。外からバタバタ眼つきをかえて駈《か》け込んで来て、いきなり、ずぶりですからね。」`「踏んだのか。」`「ええ、きょう配給になったばかりのおミソをお重箱に山もりにして、私も置きどころが悪かったのでしょうけれど、わざわざそれに片足をつっ込まなくてもいいじゃありませんか。しかも、それをぐいと引き抜いて、爪先立《つまさきだ》ちになってそのまま便所ですからね。どんなに、こらえ切れなくなっていたって、何もそれほどあわて無くてもよろしいじゃございませんか。お便所にミソの足跡なんか、ついていたひには、お客さまが何と、……」` と言いかけて、さらに大声で笑った。`「お便所にミソは、まずいね。」` と僕は笑いをこらえながら、`「しかし、御不浄へ行く前でよかった。御不浄から出て来た足では、たまらない。何せ眉山の大海《たいかい》といってね、有名なものなんだからね、その足でやられたんじゃ、ミソも変じてクソになるのは確かだ。」`「何だか、知りませんがね、とにかくあのおミソは使い物になりやしませんから、いまトシちゃんに捨てさせました。」`「全部か? そこが大事なところだ。時々、朝ここで、おみおつけのごちそうになる事があるからな。後学のために、おたずねする。」`「全部ですよ。そんなにお疑いなら、もう、うちではお客さまに、おみおつけは、お出し致しません。」`「そう願いたいね。トシちゃんは?」

— posted by id at 01:43 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.0501 sec.

http://vividnews.jp/