眉山のいない時

「白痴じゃないですか、あれは。」 僕たちは、眉山のいない時には、思い切り鬱憤《うっぷん》をはらした。「いかに何でも、ひどすぎますよ。この家も、わるくはないが、どうもあの眉山がいるんじゃあ。」「あれで案外、自惚《うぬぼ》れているんだぜ。僕たちにこんなに、きらわれているとは露知らず、かえって皆の人気者、……」「わあ! たまらねえ。」「いや、おおきにそうかも知れん。なんでも、あれは、貴族、……」「へえ? それは初耳。めずらしい話だな。眉山みずからの御託宣ですか?」「そうですとも。その貴族の一件でね、あいつ大失敗をやらかしてね、誰かが、あいつをだまして、ほんものの貴婦人は、おしっこをする時、しゃがまないものだと教えたのですね、すると、あの馬鹿が、こっそり御不浄でためしてみて、いやもう、四方八方に飛散し、御不浄は海、しかもあとは、知らん顔、御承知でしょうが、ここの御不浄は、裏の菓物屋さんと共同のものなんですから、菓物屋さんは怒り、下のおかみさんに抗議して、犯人はてっきり僕たち、酔っぱらいには困る、という事になり、僕たちが無実の罪を着せられたというにがにがしい経験もあるんです、しかし、いくら僕たちが酔っぱらっていたって、あんな大洪水の失礼は致しませんからね、不審に思って、いろいろせんさくの結果、眉山でした、かれは僕たちにあっさり白状したんです、御不浄の構造が悪いんだそうです。」「どうしてまた、貴族だなんて。」「いまの、はやり言葉じゃないんですか? 何でも、眉山の家は、静岡市の名門で、……」「名門? ピンからキリまであるものだな。」

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